紙本著色十界図〈/六曲屏風〉
十界とは地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人・天の六道に、声聞・縁覚・菩薩・仏の四聖を加えた仏教独特の世界観であるが、十界すべてを描かない場合でも特殊な六道絵を十界図と呼ぶことがある。本図も『本朝画史』以来、十界図屏風として著名なものである。
本図は六曲一双の屏風に、向かって右より地獄をはじめとする六道諸相を描き、左端には六道輪廻からの救済者として、山あいより湧現した当麻曼荼羅を表している。各場面は一連の風景の中に描かれ、スヤリ霞や山岳等で自然に区切られる。人道以外の五道は類型的な表現で、苦界の悽惨さは稀薄であるが、いっぽう人間界は諸相がこまごまと描かれて生彩あり、風俗に対する関心の強さが看取される。さらに六道に対置して当麻曼荼羅を描いている点は、曼荼羅自体に対する強い信仰を示していよう。
本図に描かれた当麻曼荼羅は、九品来迎図を立像の聖衆で表す点に古様が認められ、人間界邸宅中にみられる画中画とあわせて、十四世紀頃の形式を示している。いっぽう、右隻に金箔の日輪、左隻に銀箔の月輪を表す日月屏風の体裁をとり、上方の余白に金銀の砂子や野毛を装飾的に多用するなど近世風俗画をさきどりしている。
以上のように、本図は鎌倉時代から南北朝時代の頃の表現上の特色を色濃く残しつつ、次代の近世風俗画的要素を胚胎しており、形式上過渡的な作品として重要である。制作期は室町時代中期を下らないとみられる。
「国指定文化財等データベース」による